理想の都世知歩さんは、
その週が明け、火曜日の夜になった。
恐らく例の出版社のお仕事があった都世知歩さんから、今夜自分も遅くなると連絡が入っていることに気が付いていなかった夜。
私も私で閉店後の作業が長引き、帰路についた頃、短針は九時を通り過ぎていた。
だから気付かなかったのだ。
私が今日遅くなるということは既に朝の時点で伝えてあった。
作業の終盤、何度か繰り返された「もう上がっていいよ」と「ありがとう」を再度口にする三谷さんに挨拶して、ファイルに向き合う彼の「暗いから送る」という気遣いを笑んで断る。
店の外に出ると雨が降っていて、それで今日は傘を持って来ていたことを思い出して一度店内に戻った。
白で縁取られたビニール傘を差して自宅に近付くと、無言で傘の下に侵入してきた影があって驚き立ち止まる。
「いいところにいた」
とん、と押された肩。
少し視線を右隣へずらしただけで入る、綺麗な髪。
「り、っちゃん」
名前を呼ぶと、彼はもう入っているのに「いれて」と言った。