理想の都世知歩さんは、




【SIDE 貴堂 律】




雨が降っていた。

電灯の柔い光に照らされる中に在った傘の下に入る。

見覚えがあったのは傘ではなく、傘を持つ手の方。


小さく跳ねて、こちら側に動く頭を見て、秒より小さな時の単位の後で彼女が驚いたことに気付いた。


「いれて」

そう言うと、和平衵は何か言いたげな眸でこちらを見る。

「…」


目が合ったので黙って、傘の下から出てみた。

すると慌てた様子の傘が頭の上を追ってきて、でも低い位置からずれたそれは頭に当たり、顔を顰める原因となった。

彼女の身長に合わせられていたのだから当たり前。


「ご、ごめ…っ」


焦ったような声色に、思わず笑った。笑って笑って、和平の手から柄をするりと手に取って差し直す。

きょとんとして雨を遮られている時、もう一度肩に当たった。


傘の端から雫が落ちて、他の皆と一緒に成った。


必要ないのに柄を持ったことに対して“ありがとー”と言っているから首を横に振る。
同時に和平は笑って口を開いた。

「衛くんは一緒に住んでいるわけじゃないの?」

「――ん。遅い時間は居ないことの方が多い」

それからまた少し黙って、一階の階段下で立ち止まり、閉じた傘を受け取った和平は無意味に偉そうに口元に弧を描く。

「りっちゃん今衛くん送ってきたんでしょ」

「え」

「ひとつしか持っていかなかった傘、衛くんにあげたんだろうなって思って――」

「……」

「りっちゃん優しそうだから…って、違ったかな」

「…………その顔すごいきもい」

「……ごめんね!?」




なんで。

お前が嬉しそうに笑ってんの。きもい。





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