理想の都世知歩さんは、
りっちゃんと別れた後、帰って手を洗っていると玄関から物音が聞こえた。
振り返って洗面所から覗くと、開けられた扉の向こうに見える影があったから単純に彼だと思った。
けれどそれは、予想していた都世知歩さん一人のものではなくて。
玄関口で顔を上げた彼と目が合う。
間を置いた後気楽に微笑まれて、はっとして、その場から右手に在る浴槽に飛び退いてシャワーカーテンを勢いよく閉め、しゃがみ込んだ。
今、菜々美さん……!
が居たかもしれない…。
も、もしかして、私が帰宅遅くなるって言ったから居ないと思ってたかな…!
心の中でうわああやってしまったと叫んでいると、カーテンの向こうから「衵」と呼ぶ声がした。
何を言われるんだ、怒られると思い、覚悟に身体を硬直させる。
しかし、聴こえてきたのは柔らかい声だった。
「ばーか!」
「えっ」
反射的に発した声の後、心の中でもう一回疑問符を浮かべる。
するとカーテンが開かれ、浴槽にしゃがむ私を見下ろした都世知歩さんもしゃがんでじっと見つめてきた。
「何ですかごめんなさい」
恐々と、申し訳なさを伝える。都世知歩さんはそれを無視した。
「こんな所で小さくなってどうすんだよ…忘れ物取りに来ただけだから」
やさしい都世知歩さん。
菜々美さんは私の影に気が付いただろうか。勘違いしなかっただろうか。心配だった。
重荷や負担になってしまっては、困る。