理想の都世知歩さんは、




彼女を待たせていた都世知歩さんは立ち上がり、向こうへと消えて行く。

其処から出ることも出来ない私は口を結んだままじっとしていた。

数秒後、ひょいと再び洗面所を覗いた彼は私に「送ってくる」と言い残して出て行った。

玄関からは、ドアの閉まる音がした。


「はぁ」

順を追うように出て行った都世知歩さんの影の後。自分に吐いた溜め息は、独りになった空間に寂しさを加えることに気が付いて、思わず息を留める。


徐に目を閉じれば雨音が聞こえてきて。

そうだ、雨が降っていたんだって思い出す。

でもどうして忘れていたのかは考えなかった。


傘、忘れずに持って行ったかなって考えた後、私より後に付いたのだから持っていったか、って思う。

電灯の下に並ぶ二人を想像して、どこからか流れ込む雨の香りを吸い込む。




独、り。


不思議だ。

当然のように一人で暮らすつもりで越して来たのに。


いつのまにか、当然がすり替わっているとは。



浴槽から出て、少し濡れてしまった靴下を脱いで洗濯機に放る。



不思議。

明日、私が回す洗濯機の中には、恐らく都世知歩さんの靴下も含まれているのだ。

小さな違和感が日常の中で当然に姿を変えていく様子は。


私の彼に対するそれと同じだと思う。


「友だち」ではないのか。


彼は「当然」、なのか。





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