理想の都世知歩さんは、
走る皐月、滲むあまさ
「ゴールデンウィーク、衵どうするの。実家?」
四月も下旬に近付くと、世間はすっかりゴールデンウィークの話題で持ち切り。
うちのダイニングでも今話題になったところだ。
食器を洗っていた私は僅かに顔を左へ向け、「実家にも寄るとは思うけど、お店はやってるから日帰りかなーと」と、答える。
ふうんと返した都世知歩さんは酎ハイ片手に欠伸をした。
「都世知歩さんは?」
「んーそのことなんだけど」
「?はい」
もう少しちゃんと耳を傾けた方が良さそうな声のトーンに水を止め、食器拭きに移る。
すると早速都世知歩さんの、酒缶の端を噛む音がした。
ちょっと酔っている時の癖らしい。
「営業っつうか、出張で数日空けると思う」
「へ」
純粋に驚いたのは、此処で生活を始めてから約一か月、一度もそういうことがなかったからだ。
そういうことというのはつまり、どちらかが数日居ないということ。
顔を向けると都世知歩さんが下ろしていた視線を私の方へと上げ、その眸にドキリとする。
手にされた缶には電気の灯が映っていた。