理想の都世知歩さんは、
「スピードやるか」
部屋に入るなり躊躇する様子など微塵もなく、私が寝ようと敷いていた布団側に向いて胡坐を掻いた。以前、目が覚めた時に彼の姿が在ったその場所だ。
手にした掛け布団を放り、トランプをケースから出すなり手際よく切っていく。
「衵も座って」
ドアの傍に突っ立っていた私は、そこから見る自分の部屋に陽だまりのような場所ができるのが見えた気がした。
「都世知歩さん、明日早いんじゃないですか?」
「んーそうでもない」
ふわふわ浮かぶ彼の髪。
他に表現する言葉がないってくらい、やさしさそのもので。
それで胸がきゅうっとなった。
「…俺、お父さんみたい」
並べるトランプから少し顔を上げた都世知歩さんの言葉に、「は?」と加える。
「だから、おとーさん」
「何言ってるの…お父さんはもっと凄いです」
「何で?衵のお父さんマッチョなの?」
「何でそうなる」
はは、と笑う都世知歩さんから真新しい様子のトランプを受け取って。
それはもう全力でトランプに勤しんだ真夜中。
…悔しいことに、完敗だった。
都世知歩さんは反射神経が頗る良く、スピードなんかお手の物。
だから違うものもやってみたがそれも負けが続き。
最後の方で彼なりに気付かぬよう負けてくれたのが余計虚しかった。
というか、負けられる程“手加減”できる強さがすごかった。