BULLET for MY VALENTINE
     ****

「パパ!!」


舌足らずで無邪気な声が、リビングに響いた。

「ん、どうした?」

「お話聞かせて!?」

5歳くらいの少年がいて、小走りで向かってくる。それを笑いながら、ゴツゴツとした固い手が抱き上げた。

いくつもの傷痕のある男の手に、少年は安心した様子で身を預けた。



数年前、死神と呼ばれた男は、普通の家族の父親となっていた。

普通の暮らし。普通の家庭。普通の仕事。仕事は長続きせず転々としているが、嫌いじゃない。軍人時代の蓄えが使っても使いきれないほど残っているので、生活の心配は必要なかった。

妻は今買い物に出掛けている。遊び相手がいないので私に矛先が向いたのだろう。幼い息子をあやしながら、彼はソファーに深々と腰かけ、息子を隣に座らせた。

「ねぇパパ!何か面白い話してよ!!」

「ハハ、わかった。わかったからソファーの上で跳ねるのはやめなさい」


息子は父親である彼が大好きだった。優しいし、力強い。近所の友達からも羨ましがられる自慢の父親だ。そして何より、彼は父親の話を聞くのが至福の一時で、何回もねだっては父親を困らせ、母を苦笑させた。

< 16 / 51 >

この作品をシェア

pagetop