初恋は雪に包まれて
「……淳くん、」
「ん?」
普段はこんなこと、恥ずかしくて言えないから。
今日はぜんぶお酒のせいにしちゃって。
少しだけ、わがままを言ってみよう。
「やっぱりね、少し寒いかも。」
ミルクティーを左手に持ち、空っぽになった右手を彼の前に差し出す。
そして、ゆっくりと。
恐る恐るその大きな左手を捕まえると、彼がはっとしたのがわかった。
「つ、繋ぎたいです……。」
きっと彼にしか聞こえないであろう小さな声でそう呟く。
恥ずかしさで顔を俯かせると、彼が小さく笑ったのがわかった。
「これで寒くないか。」
そう言うと、彼は自分のダウンジャケットに私の手を導いた。
ポケットの中。
彼の手が私の手を温めるように包む。
その行為が恥ずかしくて、でもそれよりももっと嬉しくて。もっともっと、体温を分けあえたらいいのに。
「……淳くん、だいすき。」
思わずそう呟いた私の言葉に、彼が足を止めた。
不思議に思い彼の顔を見上げると、困ったような表情を浮かべている。
いきなりこんなことを言って、困惑させちゃっただろうか。
「淳くん?」
「……殺し文句だろ。」
そう呟くと、なんと唇が降ってきた。
大きな体を私に寄せて、一瞬私の唇をかすめるように重なったそれは、何よりも熱い。
しばらくポカンと見上げる私の顔を見つめたあと。
「帰るぞ。」
そう言い残し、背を向ける。
帰りたくないけど、と続け、私の手を引く彼の背中を追う。
きっと私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。
今が夜で良かった。誰にも見られていない。
あ、でも。
もしかしたらこの冬の夜空から星たちだけ見ていたかもしれない。
そんなことを考えながら、
再び同僚の家を目指した。
Fin.