初恋は雪に包まれて
あぁ、なんだか目眩がする。
何度も確かめたが、これは夢じゃない。現実なのだ。
目の前の伊東くんの眉間の皺はいつの間にか消えていて、なんだか満足そうな、スッキリしたような顔をしている。
それとは正反対に私の心は何とも言えないざわつきを覚えていた。なんだろう、これ、こんなこと初めてだ。
もう、これじゃあ――
「きょ、今日、眠れそうにない……」
小さく呟いた私の言葉を耳にした彼は、なんとも嬉しそうな表情をして「それでいいんだよ。」と小さく呟いた。
「帰るか。」
気が付けばもうかなりの時間が経っていた。そういえば他の同期はどうしたのだろうか。
やっぱりカラオケでも行ったのかな、なんて思っていると、不意に私の左手か包まれた。
少し前を歩く彼の後を、少し遅れてついていく。さっきとは違う、ゆっくりとした彼の歩調。
私の左手は、彼の右手に捕まったままだ。雪の降る町は寒いはずなのに、私の左手は暖かい。
伊東くんの大きな背中を見ていると、胸かドキドキした。
このドキドキの正体はまだわからない。
けれど私の気が付かない間に、私の中で
、何かが生まれている。
何かが始まっている。
そんな気がした。
Fin.