初恋は雪に包まれて
「話を逸らすな。」
……怒られた。
彼は見るからに苛立った様子でそう言うと、程よくダメージの入ったジーンズの後ろポケットに右手を入れた。
そこからラッキーストライクを取り出すと、それを一本口にくわえ、火を着ける。
気持ち良さそうに煙草を吸い、その形の良い口から煙を吐き出す間も、彼は私から目を逸らそうとはしなかった。
つり目だもない、タレ目でもない澄んだ彼の瞳は私の姿をしっかり捉えたまま離さない。
「えっと……」
私から言葉を発するのを待っているのか、彼は何も話そうしなかった。
……どれくらい時間がたったのだろうか。
さっき着けたばかりだと思っていた煙草の火は、もう彼の指ギリギリのところまで迫っていた。
彼は最後に大きく肺の中に煙を入れると、またもやポケットから小さな携帯灰皿を取りだし、そこに吸い殻を収めた。