初恋は雪に包まれて


小さく、消えそうな声で話し始める私を、彼がちらっと見たのがわかった。

何も言わないが、ちゃんと聞いてくれている。それに安心し、さらに続ける。


「……伊東くんって、ジュン君っていうんだね。」

知らなかった、と加えると、彼は困ったような苦笑いを浮かべた。



「知らなかったのか。」

「ふふ、ごめんなさい、えっと、どんな字?」


ジュンって、いろんな字がある。彼の名前はどの字を書くのだろう。


「淳厚の淳。」

「……じゅんこう?」


……あぁ、自分の無知さが恥ずかしい。じゅんこう、ってどういう字?どういう意味なのだろう。

そんな思いが顔に出ていたのだろう。彼はまた小さく笑うと、繋いでいる手とは逆側の手を空に掲げた。

そして人差し指で透明な文字を書く。


「……わかった?」

「えっと、……さんずい?」


シン、と静まった道をゆっくりと歩く。アルコールを飲んだせいか、どこか気持ちがふわふわしている。

もう一度空にゆっくりと書いてくれるが、結局どんな漢字かはわからなかった。

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