初恋は雪に包まれて


後で調べてみろ、と言われたので、素直にそれに従おうと思う。今の時代、スマートフォンで調べたら何だって出てきてしまうのだ。


だけど、一年も一緒に働いていて名前を知らないなんて、失礼かも。

そんな考えが浮かんだ。……あれ、でも伊東くんは私の名前知っているのかな。



「俺は知ってるけどな。」

「え?」

「小山の名前。」


きっとこの時、私は驚いた顔をしていたと思う。

まさに今浮かんでいた疑問が解決したのだ。……というか、まさか知っていたなんて。



不意に彼が足を止めた。気が付けばそこはもう私のアパートの前だった。

オフホワイトの塗装がされた二階建てのこのアパートは、この時間はオレンジのライトでところどころが照らされている。


……あぁ、もう着いてしまった。
本当はもう少しだけ、この手を繋いでいたかったのに。

そんなことを無意識のうちに心の中で呟いていたことを、この時の私は気付いていなかった。




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