月光-ゲッコウ-
1.更待月
「新堂くん。今夜の食事会の場所はドコだったかね?」
後部座席に乗り込むと、さっそく社長は口を開いた。
『はい。20時より赤坂の料亭での藤澤様と会食のご予定になっております。』
びっしりと文字で埋まった手帳を見ながら答えた。
社長は小さなため息を吐くと、窓の外を眺め頷いた。
今年50歳を迎えるのに、顔には殆どシワはなく、長身ですらりとした身体つき。
若い頃はモテたに違いない。
その小田切尋成(オダギリヒロナリ)社長の秘書をして、もう3年になる。
秘書課に入った当初は、こうして社長と共に行動していたのは先輩秘書で、あたしは雑用や社内での仕事や、他の重役達の世話だった。
「16時か…食事会まで、時間がある。
いつもの所へ行ってくれ。」
社長はそうドライバーに伝えると、あたしの顔を見つめた。
あたしが今、社長の第一秘書である秘密。
それは
社長の愛人という地位を得たからだ。
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