月光-ゲッコウ-
「息子の不貞で、こんな事になってしまい、まことに申し訳ありません。千歳さんとの婚約していながら、息子は裏切り、他の女性を妊娠させ、なんと言っていいか…。お金で片付けるわけではありませんが、お詫びと婚約解消の慰謝料として、こちらをお受けとりください。」
テーブルの上に出された分厚い封筒は、お金だったのだ。
彼を見ると、頭を下げたままで、あたしの方など見る様子がなかった。
彼の父親の話を聞いて、父は激怒した。
母は泣いていた。
あたしは何も考えられなかった。
「君はこの状況をどう思っているんだ?千歳になんか言う事ないのか!?」
彼の胸ぐらを掴み、父は怒鳴った。
うつむき、震える彼
「…申し訳…ございません。千歳さんとは…本当に結婚しようと思ってたんです。ただ…」
彼はその後の言葉を言わなかった。
あたしはずっと騙されてたんだね。
甘い言葉も、この5年間も
すべて偽りだったんだね。
怒鳴り散らす父。
謝り続ける彼の両親。
あたしはそっとテーブルの上に置いてあった封筒に手を伸ばした。
封筒を開け中身を確認すると、束が1つ。