月光-ゲッコウ-
「私はね。社長に思いを告げたの。今思えば、愛人の分際ですごい勇気よね。けど…言ったから今がある。」
だから、
だから交代しても、叶わない恋でも、笑っていれるの?
あたしにはわからない。
そんな感情を思い出せないし、感じた事もないから。
「今の夫は社長の紹介なのよ。」
えっ?
それじゃあ…社長がいらなくなって、お払い箱にしたみたいな…
政略結婚みたいな…
「心配しないで、私が言ったの。私の思いを受け入れられないなら、第一秘書をおろさせてください。そして、伴侶となる人を紹介して欲しいってね。」
麻生さんはにっこりと笑って、食後のコーヒーを一口飲んだ。
自ら、そう言った麻生さんの気持ちはどうだったんだろう。
考えると、なんだか切なくなる。
けれど、これで良かったと言った彼女の顔は切なくもなくて、綺麗な笑顔だった。
本当に幸せなんだ。
そう思うと、ほっとした。
「だから、なんかあったら遠慮なく相談してね。私が見るかぎり、社長はあなたを相当気に入ってる。」
麻生さん…。
でも、あたしの中の社長への不安は話す事は出来なかった。