月光-ゲッコウ-
「あなたが言いたい事はわかりますよ。でも、それをわかりましたと言うつもりはありません。」
運ばれて来た料理を一口食べると、加雁さんは急に言った。
「あなたが、小田切社長の一番の愛人なのも知っています。でも、それであなたを誘った訳じゃありません。」
え?
どういう事?
あたしが不思議そうに加雁さんを見ると、彼はまたクスクスと笑った。
「なぜかはまだ秘密です。また後で教えます。そうですね、これだけは言っておきましょうか。」
秘密って何?
こうやって、女の人を惑わすのが得意なんだ?
ひっかからないんだから。
私が真顔で次の言葉を待つと、彼の顔も急に真面目な顔に変わる。
「あなたはいずれ、俺のモノになる。」
はっ?
彼の口がにやりと笑う。
何言ってるの?
この人?
いつもこうなんだろうか?
「失礼。つい、本当の僕が出てしまいました。」
さっきとは違う、いつもの笑顔に戻って言う。
こっちが偽物なのか…
『…本当の加雁さんで結構ですよ。その仮面被るのやめてください。』
あたしが言うと、彼はにやりと笑った。