月光-ゲッコウ-
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『あの人…加雁さんだったんですか!?』
ニヤリとして加雁さんはうなずく。
顔覚えてない…。
けれどそのネックレスが何よりも証拠だ。
あの日、あたしはそのネックレスを着けてた。
目が覚めたらいつのまにか家にいて、胸元にそれはついてなかった。
加雁さんが持ってたんだ…
「おまえ、相当飲んでたからな。顔なんて覚えてなかっただろうが、俺は顔も話も全部覚えてる。」
全部覚えてる…だから、あたしの事を知ってたんだ。
もう誰も愛さない事を…
「まさか、小田切社長の愛人だったとは驚いたけどな。あのレストランでまず小田切社長より、千歳に気づいたんだ。そしたら隣には小田切社長。でも、そのおかげで、食事に誘えた。」
グラスの中身を飲み干すと、あたしを見てまたニヤリと笑った。
あの時、どこまで話してしまったんだろう。
加雁さんがあたしの事情を知っている事に戸惑いはあるけれど、知っているなら、楽だ。
特に取り繕う事もない。
少し弱味を握られてる気もするけど、いつも気を張ってるから、事情をしってるとなると気を張る必要がない。
『それならそうと、早く言ってくれれば良かったのに。なんか気ぬけちゃった…。』