月光-ゲッコウ-
「俺は千歳にまた会いたいと思ってた。」
え?
気がぬけたはずの体に、急に力が入った。
「あの時、千歳の話聞いて興味がわいた。俺もその時限りのつもりで、連絡先も聞かずに帰ったけどな。けど、帰ったら俺のボタンにコレがひっかかってたんだ。」
そう言って加雁さんは再び三日月のネックレスを手に持った。
「コレ見たら〔あたしの暗闇の中には月はないの。〕っておまえの言葉を思い出したんだ。」
ネックレスをあたしの手におくと、さっきとは違って優しく微笑んだ。
あたしはネックレスをガラス越しに見える月と重ねた。
『今もまだ、あたしの暗闇に月はないよ。』
あたしが小さな声でそう言うと、頭にふわっとした感触がした。
それは加雁さんの手で、あたしの頭を優しく撫でた。
「俺がおまえの月になってやるよ。だから、俺の女になれ。」
優しい声だった。
けれどあたしは、3年前に1度会ったダケの女だ。
やっぱり男の言う事は信じられない。
誰も愛さない、寂しい女だから
ちょっと興味がわくだけだ。
『知ってるでしょ?あたしは誰も愛さない。誰のモノにもならない。愛人が都合いいの。』
あたしがそう言うと、加雁さんは大きくため息をついた。
「やっぱりだめか。まぁ、いい。そんなに焦る事でもない。でも、おまえは必ず俺の女になるよ。」
そんな事言っているのも、きっと今のうち。
しばらくすれば、その言葉は違う女性に言うんだろう。
でも、ほんと傲慢な人だな…この人。