月光-ゲッコウ-


「俺は千歳にまた会いたいと思ってた。」


え?


気がぬけたはずの体に、急に力が入った。


「あの時、千歳の話聞いて興味がわいた。俺もその時限りのつもりで、連絡先も聞かずに帰ったけどな。けど、帰ったら俺のボタンにコレがひっかかってたんだ。」


そう言って加雁さんは再び三日月のネックレスを手に持った。


「コレ見たら〔あたしの暗闇の中には月はないの。〕っておまえの言葉を思い出したんだ。」


ネックレスをあたしの手におくと、さっきとは違って優しく微笑んだ。


あたしはネックレスをガラス越しに見える月と重ねた。


『今もまだ、あたしの暗闇に月はないよ。』



あたしが小さな声でそう言うと、頭にふわっとした感触がした。


それは加雁さんの手で、あたしの頭を優しく撫でた。

「俺がおまえの月になってやるよ。だから、俺の女になれ。」


優しい声だった。


けれどあたしは、3年前に1度会ったダケの女だ。



やっぱり男の言う事は信じられない。



誰も愛さない、寂しい女だから



ちょっと興味がわくだけだ。


『知ってるでしょ?あたしは誰も愛さない。誰のモノにもならない。愛人が都合いいの。』


あたしがそう言うと、加雁さんは大きくため息をついた。


「やっぱりだめか。まぁ、いい。そんなに焦る事でもない。でも、おまえは必ず俺の女になるよ。」


そんな事言っているのも、きっと今のうち。


しばらくすれば、その言葉は違う女性に言うんだろう。


でも、ほんと傲慢な人だな…この人。


< 42 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop