月光-ゲッコウ-
「どうだ?今日のこの店もなかなかいいだろ?」
にかっと笑いながら、加雁さんはあたしに言った。
あたしが頷くと、加雁さんは満足そうに笑う。
今日は久しぶりに加雁さんとの食事。
おいしそうに食べるその姿は、どこか少年っぽい。
あと何回、この人と食事が出来るのだろう?
忙しい人だから、そんなに出来ないかもしれないなぁ。
食事を食べ終わると、加雁さんの経営するホテル【pearlmoon】に向かう。
いつも食事の後は【white moon】に行く。
いつも通り月が見える、窓側の席。
お気に入りのカクテルを頼んで、グラスを合わせる。
今日も…月が綺麗。
「今日は千歳に聞いて欲しい話があるんだ。」
カクテルも3杯目にはいった時、珍しく真面目な顔で加雁さんが言った。
どうしたんだろう?
あたしはグラスをテーブルに置いて、加雁さんの顔を見つめた。
加雁さんは1度あたしを見るとすぐ、グラスへと視線を向けた。
くるくるとグラスを回し、カランカランと音をたてる氷をしばらく見つめると、口を開いた。
「…俺が結婚してたの知ってるよな?この話、1度千歳に話したんだ。3年前に。千歳は覚えてないだろうけどな。」
切ない笑顔で笑った。
加雁さん…?