月光-ゲッコウ-


「さぁ、この部屋でゆっくりお休み。」


別宅に着くとすぐに、寝室に連れていかれた。


体調が悪いあたしを社長は抱きかかえて、ベッドへと寝かす。


なんて様だろう。


別れを告げるハズの人の力を借りなければ、歩く事も寝る事もままならない。


どうして身体は動かないんだろう


どうして話そうとしても言葉にならないんだろう



なんで


こうなったんだろう?




社長はベッドの脇で、あたしの頭を撫でながらあたしの様子を見る。



社長は優しい人だと思う。

この人のおかげで、寂しくなかった。


お金も貯まった。


あたしを愛してくれてるのもわかった。


だけど



だけど




これはあんまりにも残酷すぎる…




加雁さんとこれから


これから生きて行くと決めたばかりなのに…




「許してくれ、千歳…。私には千歳が必要なのだよ。」


社長…


あたしには



加雁さんが必要なんです



あたしには…


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