月光-ゲッコウ-
社長は布団の上からそっとあたしのお腹を触った。
「…千歳…妊娠させて、どこにも行かせない様に…加雁くんのとこに行かせない様にした私の事を恨んでいるのか?」
社長…
小さな切ない声で社長は言った。
恨んで…はいない…
社長の愛人になり
抱かれる事を許したのはあたし自身。
あたしはゆっくりと首を横にふる。
それを見ると、社長はほっとした顔する。
恨んでいたらどんなに楽なんだろう。
妊娠さえしなければ、こんな事にならなかった…
そう思ってた。
けど、お腹の子をおろすなんてあたしには出来ない。
父親が誰であれ、あたしの子供。
生めば、加雁さんの所に行けないとわかっていても
あたしにはこの子を生む道しかない。
ただ、加雁さんへの思いを打ち切れない。
まだ覚悟が出来ない。
会いたいの…
気持ちが溢れすぎて、何も出来ずにいるの。
涙が止まらないの…