月光-ゲッコウ-
10.小望月
「…千歳?千歳ッ!」
会社のビルの下まで来た時に、急に呼ばれて振り返った。
そこには会いたかった、加雁さんがいた。
あたしの元へと走ってくると、あたしを力いっぱい抱き締めた。
加雁さん…。
「1週間も連絡しないでどこにいたんだ?
何度も連絡したんだぞ!?」
少し震えた声が、会えた喜びと、不安だった事を伝える様だった。
自然と涙が出る。
あたしも力強く加雁さんを抱き締めた。
『ごめ…ごめんな…さい…。
社長と別れるのに、時間がかかってしまって…。』
あたしがそう言うと、少し身体を離してあたしの顔を不安そうに見つめた。
『…社長とはもうお別れしてきたよ。』
あたし言葉に、加雁さんはほっとした顔をした。
1度あたしから離れると、近くにいた秘書らしき人の所に行って何かを話して帰ってきた。
「今日の仕事は終わりだッ!
だから一緒に居よう!」
にかっと笑うと、あたしの手をひいて車へと向かった。