【短編・番外編】恋の罠〜恋を見つけた時〜
そして、小川に背中を向けた。
「何やってんだ、オレ…」
まるで自分に言うように、苦笑いを浮かべる。
手にはまだ小川の頬のぬくもりが残っていて、それがオレに後悔を浮かばせる。
…何してんだよ、オレ。
最低だな…
ほんと…最低だ。
じくじく痛む胸に顔を歪めてから…ふと後ろにいる小川が気になって振り返る。
小川は何も言わずに、ただ俯いていて…
そんな姿に、情けないオレはかける言葉も見つからない。
「小川…本当にごめん…」
オレが謝罪の言葉を口にすると、小川はオレをゆっくりと見上げた。
その表情は、怒っているようにも悲しんでいるようにも見えて…
だけど、無理に笑おうとしていた。
「小川…」
「先輩…
あたし、先輩にキスされるのはうれしいです…
だけど…先輩は今、あたしと青山先輩を重ねてた…
…それだけはしないでって…言ったのに…」
必死に笑顔を作ろうとしていた小川の瞳に涙が溢れる。
我慢していた涙が一気に溢れ出して、小川の頬を伝って床に落ちた。
「小川…」
「…クレープは、今日はいいです」
それだけ言うと、小川は降りてきた階段を駆け上がった。
小川が落とす涙が、差し込む西日でキラキラ光って…落ちていく。
さっきまでとは違う痛みを伴った胸を強く押さえながら、オレは下駄箱に体を預ける。
…本当に、オレは最悪だ。
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