【短編・番外編】恋の罠〜恋を見つけた時〜
「くそっ…」
あのまま小川を放っておくなんてできなくて、オレは小川が駆け上がった階段を上る。
行くところなんて思い当たらないけど…だけど、小川の姿を探して校舎中を駆け回った。
小川の教室も、それ以外の教室も、オレの教室も。
だけど小川はどこにもいなくて…
…もしかしたら入れ違いで帰ったのかもしれない。
そんな思いが浮かんできて、オレは走り続けていた足を止めた。
そして上がりきった呼吸を整える。
はぁはぁ、とオレの呼吸だけがやけに大きく聞こえて…
だけど、その呼吸に混ざって聞こえる微かな泣き声に、オレは顔を上げた。
微かに…だけど確かに聞こえる泣き声…
…どこだ?
その消え入りそうな声を拾いながら、オレは足を進めて…
図書室の前で止めた。
少し開いたドアからは小川の泣き声が聞こえる。
ドアの半分を構成させるガラス部分からは、机に突っ伏した小川の後ろ姿が見える。
…その後ろ姿が震えていた。
その後ろ姿に、オレの体の中心が捻られたような痛みを持つ。
ぎゅっと…引き裂かれそうなほどの鋭い痛みが、体のど真ん中に走る。
涙を流した小川を見たのは、初めてだった。
あんな必死に笑顔を作る小川を見るのは、初めてだった。
今まで、
見ないように、気付かないようにしてきた自分に、初めて気付いた。
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