【短編・番外編】恋の罠〜恋を見つけた時〜



つぅか、恋人前提ってなんだっ

聞いた事ねぇし!


だけど、それ以外に上手い言葉なんか思いつかなくて…

恋人前提が上手い言葉かどうかもよくわかんねぇけど…


思いっきり頭をかきむしりたい衝動を抑えながら小川を見ると、小川はオレをじっと見返してきて…

にこっと微笑んだ。

…ん?微笑んだ??



「…早く昇進させてくださいね」


小川が少し潤ませた目で微笑みながらオレを見つめる。


ドクンと大きく跳ねる心臓が体中に響いて、その音だけがオレの聴覚を支配していた。


自分の心臓の音以外何も聞こえない状態で小川をただ見つめて…

すると見つめる先で、小川の瞳から涙が溢れた。


「小川…」


「ごめんなさい…

あたし、嬉しくて…ずっと好きだったから嬉しくて…」


肩を震わせて泣く小川が可愛くて、愛しく思えて…

守ってやりたくなる。


そんな衝動が体中に走り、そのまま留まる。



強がってばかりだけど、本当は弱くて泣き虫で。

ちっとも素直じゃねぇけど、自分の本当の気持ちは誤魔化さない。


好きなんて言いながら、涙を流す小川にオレが一歩づつ歩み寄る。



そして、涙を溢れさせる小川をオレの胸に引き寄せた。



「恋人前提」

オレが「前提」を取り消す日は、きっと近い。


…すっげぇ近い、と思う。


大きく速くなる一方のオレの心臓がそう伝えてる。




ドクドク響く心臓がうるさくて、5時間目開始のチャイムが聞こえない振りをした。

チャイムが鳴り終わっても、大人しくオレの腕の中に収まってる小川が、もうどうしょうもなく…

どうしょうもなく―――…



…だめだ、うまい言葉が思いつかねぇ。

きっとどうやったって言葉には出来ない想いがオレを襲って、小川を抱き締める腕に力を込めさせる。




オレ達の関係が、また裏庭から動き出す。




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