翼のない天狗
騒がしくなった。氷魚は呼吸を整え、前を見据える。
覚悟は出来た。
「氷魚」
主席には汪魚、その隣に沙子。そして、氷魚を取り囲むように他の人魚達。氷魚は恨めしそうに周りを一瞥した。
「流澪の魂が抜けている。お前だな。説明を」
「長……いえ、兄様の魂を一度抜いてから」
そう言って、氷魚は汪魚の左胸を強く押した。
汪魚の目の光が消え、体勢が崩れる。
「汪魚様!」「「長」」
沙子らが汪魚を取り囲む。
「氷魚様……何をなさった!」
ある人魚が氷魚に突き掛かる。氷魚は身を翻し、その魂も抜いた。