翼のない天狗
 
 騒がしくなった。氷魚は呼吸を整え、前を見据える。
 覚悟は出来た。


「氷魚」
 主席には汪魚、その隣に沙子。そして、氷魚を取り囲むように他の人魚達。氷魚は恨めしそうに周りを一瞥した。
「流澪の魂が抜けている。お前だな。説明を」
「長……いえ、兄様の魂を一度抜いてから」
 そう言って、氷魚は汪魚の左胸を強く押した。

 汪魚の目の光が消え、体勢が崩れる。
「汪魚様!」「「長」」 
 沙子らが汪魚を取り囲む。

「氷魚様……何をなさった!」
 ある人魚が氷魚に突き掛かる。氷魚は身を翻し、その魂も抜いた。
< 113 / 224 >

この作品をシェア

pagetop