翼のない天狗

「流澪殿が私に、乱暴をしようとするからです」
 氷魚は汪魚に向かい、言った。
「しかしお前達は、」

 氷魚は首を横に振る。
「私は清青様をお慕いしております」

 場が騒つく。
「お前は人魚、そしてあの清青は人間、いや天狗」
「そんなこと、関係ないのですよ」
 依存あらばその魂を抜かん、という気概が氷魚の表情に映っている。
 
「……して、流澪の魂はどこだ」
 汪魚は話を変えた。
「水の上です」
 水の上、地上で発せられた例の触れは水の世界にも広まっている。

「無闇に行かれない方がよろしいでしょうね」
 帝の触れは「どんな」人魚かを特定していない、つまり「どんな」人魚でも良い。しかし、氷魚は人間が滝に向かうことを阻んでいる事を知りながら喋る。そのことを知っている者はいない。皆、水の上に姿を現せば命を狙われると思っているのだ。
< 115 / 224 >

この作品をシェア

pagetop