翼のない天狗
「流澪殿が私に、乱暴をしようとするからです」
氷魚は汪魚に向かい、言った。
「しかしお前達は、」
氷魚は首を横に振る。
「私は清青様をお慕いしております」
場が騒つく。
「お前は人魚、そしてあの清青は人間、いや天狗」
「そんなこと、関係ないのですよ」
依存あらばその魂を抜かん、という気概が氷魚の表情に映っている。
「……して、流澪の魂はどこだ」
汪魚は話を変えた。
「水の上です」
水の上、地上で発せられた例の触れは水の世界にも広まっている。
「無闇に行かれない方がよろしいでしょうね」
帝の触れは「どんな」人魚かを特定していない、つまり「どんな」人魚でも良い。しかし、氷魚は人間が滝に向かうことを阻んでいる事を知りながら喋る。そのことを知っている者はいない。皆、水の上に姿を現せば命を狙われると思っているのだ。