翼のない天狗
 氷魚は睨むように笑む。
「私など、もういなくて良いでしょう。長には仔がいますので」
 そんなことはない、と再び周囲が言う。氷魚の言わんとしていることを憶測することしかできない。

「私がいなくなって困るのは、私を肉情の捌け口とされてきた方々」

 場が、凍る。

 ここにいる多くの雄魚が、いつしかの満か朔の夜に氷魚と関係を持っている。それはこの雰囲気が証明している。

「お前達……私の妹と……」
 信じられない。汪魚は雄魚等を概観する。

「兄様、」
 兄様。
 長。
 その二つの呼称を氷魚は使い分ける。
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