翼のない天狗
清青の目の前に自分の髪がなびいている。日は頭の上でさんさんと輝く。
起きて辺りに目をやると、烏の面は滝の下から伸びる浅い流れに浮いていた。
清青は高い木の上から降り立ち、流れに脚を入れた。夏だと言うのに何と水の冷たいことか。
大きな岩に乗り、そこへ流れて来た面を拾う。
水面には人影が映る。自分の、父のような大天狗も、深山のような烏天狗とも掛け離れた面立ち……
いや。
清青が見たものは女の顔だった。
常盤緑の大きな瞳が真っ直ぐに清青を見ている。