翼のない天狗

 ごくん、と最後の一滴を飲み込む。
 ぐわん、と水がうねった。

 
 清青の目が白天狗の、曙色の目に変わる。
「――!」
 深山は清影から言われた通りの文句を唱える。すると水のうねりは収まり、清青は事切れたかのように倒れた。

「何をしたんだ?」
 始終を見ていた流澪が深山に訊く。
「……不老となった」
「不老?」
 いつまでも老いないということである。

 深山は流澪を睨み、清青を見た。
「お前の二十年を無駄にさせない……」

 二十年。清青が生きてきただけの時間を、この先囚われて過ごすのだ。その容貌の衰えは、同時に清青の力をも衰えさす。美しく年を重ねる者も確かに居るが、囚人にそれが可能だろうか。それならばいっそ、清青の時を止めてしまおう。それが、清影らの出した答えであった。

 その方法は清影が知っている。清青は白天狗、それに応えることの出来うる体。そして、深山は水の世界でも息が出来、そこへの行き方を知っている。行き方、と言っても出口から入るという強引なものだが。

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