翼のない天狗
「まだ、このようなことをしているのか」
 どこからか現れた声は、有青の脇を通り、帝へ寄っていく。帝に対して何と荒れた語使い。

「変わらんな」
 錫杖を御簾から抜く。それは音で解る。
 変わらない? 帝と面識のある者なのだろうか。

「な……何をしに参っ……た」
 帝も非道く動揺した声色だ。
「報告だ」
 錫杖の主はけろりと言う。しかし言葉は重く響く。

「人魚は渡せぬ」

 人魚? 人の体に魚のヒレを持つと言われる人魚のことだろうか。

「人魚などもう良い……疾く疾く立ち去れ」
「言われるまでもなく」
ふ、という薄笑いが聞こえたような気がした。そして途端に背の重みは消える。動く。
< 138 / 224 >

この作品をシェア

pagetop