翼のない天狗
「帝――」
 言葉を継げない。
 御簾が落ち、姿露わな帝は眉間に手を当てて俯いている。その様子は、ただの人と変わりない。
「下がれ……」
 吐き出すように帝は言った。

「今、ここに居た者が、お前の父親だ……」



 屋敷に戻る車の中で有青は悶えていた。

 並々ならぬ空気を纏い、帝をも狼狽させ、人魚と繋がりを持っている。それが父親。母や、祖父母、太助や弥平など古参の下男達が話してくれた父親の像とは違う。誰かが何かを伏せていたのだろうか。

 一体、私の父親は何者なのだ。
 その子、私は何者なのだ。


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