翼のない天狗
「いかがした」
「…………」

 いと美麗なるは花の君、そう呼ばれたのはもう昔のことである。それから、自分は産を経験し、子を育ててきた。容貌にその歳月を出さないことは、出来ない。

 しかし、この訪問者は。
 花の君は深く息をして己を落ち着かせ、問う。
「この二十年、何処でどうしていらっしゃったのですか?」

 もう一つ。
「そのお姿はどうしたのですか、紫青様」

 懐かしい名だ、と紫青は微笑した。その美しい笑みの中に優しさが混じっているような気がする。いつかの日には見なかった影だ。

 しかしその影もすぐに消え、怖いほどの美しさだけが残る。花の頬に触れ、囁く。
「花の君は、私をヒトとお思いか?」
 私は、と続けた声に「母上!」と叫ぶ声が重なった。
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