翼のない天狗

白天狗の仔


 紫青と有青が向かって座り、その脇に花の君が座した。

「さて、」
 紫青が切り出す。

「何から話そうか」
 随分と揚々とした声だ。こんな人が、先ほどの御所にいたのだろうか。確かに不思議な色をして、恐ろしいほどに整った容姿をしているが、纏う空気は先のそれとは比べ物にならない。

「この二十年、何を」
 花の君が尋ねる。紫青は花の君を見て、それから有青を見た。

「水の世界で囚われていた」
 二人は驚きに目を丸くする。そんな事は無理だ、と。紫青は緩く笑った。嘲笑に近い。

「……だから私は、人間が嫌いなのだ」
「え」
「人は、己の知る所のみを世界の全てだとする。水の中に都が広がっているとは思いもしないのだろう?」
 この人は頭が少しおかしいのではないだろうか。有青は思う。
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