翼のない天狗
清青は、簡素な寝床に氷魚を寝かせた。小袖を纏った豊かな胸が静かに上下する。
「どうするのだ」
「こじ開け、押し入る」
「まさに、手荒」
深山は瓢箪を傾け、大きな碗に波々と酒を注いだ。それを、ぐいと流し込む。
「心に踏み入るなど、事によっては嫌われるぞ、清青」
忠告も虚しく、見れば既に清青の体はただの脱け殻。覚醒した白天狗の、尋常でない気がその脱け殻から溢れている。
深山はその気を肴に、更に酒を呑む。この気を浴びると自身の力もみなぎるようなのだ。より速く遠くへ飛べる。
しずかに、清青はそこに足を着いた。囚われていた頃を思い出す、水底の砂の感覚。辺りは闇。暖かくもなく、寒くもない。
「ねえさま」
幼な子の声がした。正しい方向は不確かだが、清青が子の方を向いているとすれば、辰巳から。右手後方のそちらへ向かう。時折、足が砂に取られた。それゆえにヒレを纏ったのだ、と氷魚は話していた。
「どうするのだ」
「こじ開け、押し入る」
「まさに、手荒」
深山は瓢箪を傾け、大きな碗に波々と酒を注いだ。それを、ぐいと流し込む。
「心に踏み入るなど、事によっては嫌われるぞ、清青」
忠告も虚しく、見れば既に清青の体はただの脱け殻。覚醒した白天狗の、尋常でない気がその脱け殻から溢れている。
深山はその気を肴に、更に酒を呑む。この気を浴びると自身の力もみなぎるようなのだ。より速く遠くへ飛べる。
しずかに、清青はそこに足を着いた。囚われていた頃を思い出す、水底の砂の感覚。辺りは闇。暖かくもなく、寒くもない。
「ねえさま」
幼な子の声がした。正しい方向は不確かだが、清青が子の方を向いているとすれば、辰巳から。右手後方のそちらへ向かう。時折、足が砂に取られた。それゆえにヒレを纏ったのだ、と氷魚は話していた。