翼のない天狗
「ねえさま、こおりねえさま」
楽しげな声は、辰巳の方向へ進んでいく。何者かを追うように、まっすぐに。
「ねえさま!」
突然辺りが明るくなった。そして見えたのは、腰まである美しい黒髪、白金の鰭を持つ――
「氷魚?」
清青は呟いた。が、宝玉の色が異なる。あの常盤緑ではない。もう少し青味の強い色をした瞳。しかし氷魚に似た女の人魚。
「まあどうしたの、氷魚。そんなに慌てて」
「あのね、ねえさま」
闇から影が飛び出し、声が「ねえさま」と呼ぶその女の膝元で子どもの人魚の姿になった。
「氷魚」
今度は確信を持って呟く。顔立ちこそ幼いが、現れたのは氷魚だ。
大きな常盤緑の瞳を輝かせ、女に話しかける。
「先ほどね、おうなさまをお見かけしたの」
「まあ」
「それで、ねえさまに教えてさしあげようと思って。ねえさまは、おうなさまをごらんになったことがないのでしょう?」
楽しげな声は、辰巳の方向へ進んでいく。何者かを追うように、まっすぐに。
「ねえさま!」
突然辺りが明るくなった。そして見えたのは、腰まである美しい黒髪、白金の鰭を持つ――
「氷魚?」
清青は呟いた。が、宝玉の色が異なる。あの常盤緑ではない。もう少し青味の強い色をした瞳。しかし氷魚に似た女の人魚。
「まあどうしたの、氷魚。そんなに慌てて」
「あのね、ねえさま」
闇から影が飛び出し、声が「ねえさま」と呼ぶその女の膝元で子どもの人魚の姿になった。
「氷魚」
今度は確信を持って呟く。顔立ちこそ幼いが、現れたのは氷魚だ。
大きな常盤緑の瞳を輝かせ、女に話しかける。
「先ほどね、おうなさまをお見かけしたの」
「まあ」
「それで、ねえさまに教えてさしあげようと思って。ねえさまは、おうなさまをごらんになったことがないのでしょう?」