翼のない天狗
 つまり。

「そなたの、父母とは」
「そのようなこと……」
 氷魚は、唇を結んだ。震えている。

「天狗、」
 先から、そこにいるのはわかっていたが、やっと声をかけてきた。流澪だ。
「姫君の気分を害するならば、即刻戻れ。二度と来るな」
 にらまれる。清青は氷魚の髪を一房掴み、指を絡めた。そして流澪へ目を向ける。
「全きを知るは、氷魚とお前ばかりなのだな」
 流澪は目つきはそのままに答えた。
「真実を知る者は誰もいない。あの戦いで多くの仲間が死んだし、氷湟様が……。真は本当に、誰にもわからないのだ。あらゆる憶測が一つの仮定に結ばれようとしても、所詮、仮の話に過ぎない」

 年の離れた姉妹。美しいほどの常盤緑の瞳。緑の瞳は、濃き血の証。氷湟が負った罪。重い罰。
 正気を失った汪魚が、氷魚のことを指して氷湟へ言った。「あなたの悪しき実」と。

「母様も、あの日に亡くなったのです。水王を守るために……。私たちはあまりに多くのものを失いました」
 氷魚は、清青の手を払った。水王を抱えなおして、その口に魂の玉を飲み込ませた。
 
 
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