翼のない天狗
 狭い庵の中に清青は横になっている。うっすらと光を纏っているように見えた。それほどに白い肌、皺一つ刻まれることなく、初めて会ったときと変わらず若い容貌のままだ。金色に染めた絹糸のような髪も、豊かなまま。
「飲むか」
 深山が木の椀を差し出した。有青が返事をしないうちに、深山は澄んだ酒を注ぐ。続いて、清青の枕元にあった杯の中身を自分の口に流しこみ、もう一度満たした。

「……清青も、酒を好んだのか」
 酒はとろりと口に広がると、香がつんと鼻に抜けた。そして胃の腑へ落ち、そこを暖かく締めつける。うまい米と清い水から作られた酒だ。
  有青の問いかけに、深山はにやりと笑う。
「酒か。それは人並みだな。俺は清青と飲むのが好きだったがな」
 有青は、椀の中の酒を何度かに分けて飲み干した。九重でもなかなか飲めないような、上等な酒である。

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