翼のない天狗
「なんだ。お前、親父のことが知りたくってここまで来たんだろう」
 酒ばかり飲んでいる有青に、しびれをきらして深山がきく。権謀術数の中で生きている有青は、物事を率直に尋ねるのを嫌う。それが、己の実父のことであったとしても。

 深山に尋ねられても、有青は素直に表情を変えなかった。酒のせいかもしれない。表情を見せないために抜かれた眉が、少し動いた。
「有青、何年会っていなかったんだ、己の父親に」
「……父親父親とそう言うな。清青は、いったい私に父親らしい姿を見せたか。母上をまるで騙すように通じ、私を生ましめた。その後、私の前に姿を現したのは二十年後だ。帝を愚弄し、母上を惑わせ、私に」
 くすりと深山が口元に笑みを浮かべる。静かに感情を高ぶらせていく有青の横顔から、次第に老いの影が薄れていく。眦のしわ、混じった白髪、そういうものが消えていき、藤紫の瞳が輝く。

「私に、己が天狗の血を引いているということを知らしめた。それにより私は、どれほど迷ったことか」
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