翼のない天狗
「子どもじみたことを言いやがる。今や都はお前の手のひらの中だろうが。それでもまだ、そんな顔をして己の出自をぐずぐずぬかすのかよ」
「深山殿、その辺になさったらいかがですか」
ふいに遮ったのは女の声。
声の主は、庵の外に侍る。有青はそちらを見た。
はるか異郷の地で取れるという宝玉の如き大きな瞳が闇に光る。豊かな髪は黒々とし、肌は優れた焼き物のように白く滑らかなのが瞭然。簡素な着物を纏っているが、闇夜に見ても匂うように魅惑的な姿、日の元ではいかばかりか。
「そなたは」
「初めてお目にかかるでしょうか、有青殿。私は、氷魚と申します」
佳人はそう名乗った。