翼のない天狗
 雲が風に流れ、月の光が地面をぼうっと照らす。東側が大きく放たれている庵である。庵の中に光はささない。
 物語は、氷魚が自らを害そうとした件へと入る。

「……私は、清青様に助けを求めました。もう、生きていたくなかった。私は清青様の魂を抜き、同時に清青様へ私の力を伝えて、私の魂も抜いてしまおうと……。私の全てをさらけ出した清青様なら、導いて下さると思った。極楽でも、地獄でも構わない。共にいられるのなら。


 だけど、清青様は厳しかった。私の考えを受け入れてはくれなかった。

「あの部屋に案内してくれぬか」
 私の右手は清青様にきつく握られていました。言葉こそないけれど、清青様の怒り、あるいは強い思いが伝わってくるようでした。
「書簡の置いてある部屋だ。そなたが目のことを調べた場所」

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