翼のない天狗
長らく、開けられていない場所でした。水の匂いが違うのです。清青様は、そこで熱心に古い書を捲っていらっしゃいました。
「これだ」
清青様の瞳が光りました。私の方を向いて、微笑んでいました。
「氷魚、そなたの望みを叶えたい。だから決断して欲しい」
そう言って、書簡を広げました。私は清青様の指さすところを辿りました。
「これは」
それは、太古の術でございました。人魚からひれを奪い、人間の脚を与える術です。
「脚を得て、共に暮らさないか。水の上で」
清青様のあたたかい声が、私の皮膚を突き破り、血潮へ流れ込みました。
「氷魚、そなたを氷湟の元へやることなどできない。それには私はそなたを失わなければならないから。だが、この術を選べば、ここ――水の中からそなたを連れ出すことができる。汪魚や流澪から、そなたを引き離すことができるのだ」
言葉は体中を駆け巡って私を温めていきます。
「決断してほしい」
清青様は、再びおっしゃいます。
「この術を使えば、体に何らかの支障をきたす。たとえば、声を失ったり、針で突き刺すような痛みが脚をおそったり」
「それでも」
私の答えは決まっていました。
どんなに痛い思いをしようとも、清青様を選ぶことに」
「これだ」
清青様の瞳が光りました。私の方を向いて、微笑んでいました。
「氷魚、そなたの望みを叶えたい。だから決断して欲しい」
そう言って、書簡を広げました。私は清青様の指さすところを辿りました。
「これは」
それは、太古の術でございました。人魚からひれを奪い、人間の脚を与える術です。
「脚を得て、共に暮らさないか。水の上で」
清青様のあたたかい声が、私の皮膚を突き破り、血潮へ流れ込みました。
「氷魚、そなたを氷湟の元へやることなどできない。それには私はそなたを失わなければならないから。だが、この術を選べば、ここ――水の中からそなたを連れ出すことができる。汪魚や流澪から、そなたを引き離すことができるのだ」
言葉は体中を駆け巡って私を温めていきます。
「決断してほしい」
清青様は、再びおっしゃいます。
「この術を使えば、体に何らかの支障をきたす。たとえば、声を失ったり、針で突き刺すような痛みが脚をおそったり」
「それでも」
私の答えは決まっていました。
どんなに痛い思いをしようとも、清青様を選ぶことに」