翼のない天狗
二、天狗と人間
紫青
平安の都、実原隆行が屋敷前――
煌々と燃える篝火。約束の時は刻々と迫る。
カァ。
夜中に鳴く烏に、ふと下人達が気を取られたとき、突如この家の御曹司が現れた。
「紫青様」
「よう」
紫青は二日ぶりにその顔を見せた。
「よう、ではございません。どこにいらしたのですか。旦那様も奥様も大変心配なさっています」
「そう怒るな、太助。私は戻った、それで良いだろう」
太助は腑に落ちない顔をしながら尋ねる。
「お召し物は」
「女の元へ行くのに冠をすることもあるまい。これでよい」
単は萌葱に紫の松襲、狩り衣は藍。象牙色の袴で全体の色彩を整える。
煌々と燃える篝火。約束の時は刻々と迫る。
カァ。
夜中に鳴く烏に、ふと下人達が気を取られたとき、突如この家の御曹司が現れた。
「紫青様」
「よう」
紫青は二日ぶりにその顔を見せた。
「よう、ではございません。どこにいらしたのですか。旦那様も奥様も大変心配なさっています」
「そう怒るな、太助。私は戻った、それで良いだろう」
太助は腑に落ちない顔をしながら尋ねる。
「お召し物は」
「女の元へ行くのに冠をすることもあるまい。これでよい」
単は萌葱に紫の松襲、狩り衣は藍。象牙色の袴で全体の色彩を整える。