翼のない天狗
 扇子を開き、紫青は顔を隠して目だけを見せる。
「実に美しい、と」
 藤紫の瞳がきゅうと細くなり、向かう姫御を釘付けにする。幻術。
 やがて、プツンと何かが切れたように女の躯が崩れ落ちた。



 翌朝。

 紫青は都にそう遠くない山の、ビャクと呼ばれる瀧に打たれていた。
 白の瀧にはケガレを払う力のある水が流れている。
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