翼のない天狗

 足元を目まぐるしく水が流れる。
「それが、人の匂い…」
「都人の匂いです。あなたも、例えここの水で清めても、完全には消えません」
「天狗の匂いではないのか…」
「はい」

 氷魚の白金のヒレがぴしゃと水を打った。
「水に住む者の匂いとはどんなものだ?」
 清青が尋ねる。
「例えば、そなたは」

 氷魚の目線が空を泳ぎ、頭を垂れて髪で顔を隠す。

「感じませぬか?」
 声が震えている。
「拭っても拭っても、殿御の体液の匂いが消えないのです…」

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