翼のない天狗
「…母上か」
二十年前。
うららかに晴れた日に行われた花見の宴。鮮やかな着物を纏った貴人やその妻子が、見事に咲き揃った桜の下に集った。桜と人々。いずれが華麗か。
後に紫青の母となる、芳の君は御歳十七。取り立てる程には美しくはないが、どこか人を惹きつけるものをもった娘であった。実原隆行と形の上で結んだのは一月前のこと。
芳子は桜の向こうに人影を見た。
人…否。人にしては、赤い。じっとこちらを見ている、気がする。芳子以外の者は気付かないようだ。にわかに風か起こる。桜の花びらと長い髪とで視界が塞がる。
そっと目を開くと、目の前には。
天狗。
二十年前。
うららかに晴れた日に行われた花見の宴。鮮やかな着物を纏った貴人やその妻子が、見事に咲き揃った桜の下に集った。桜と人々。いずれが華麗か。
後に紫青の母となる、芳の君は御歳十七。取り立てる程には美しくはないが、どこか人を惹きつけるものをもった娘であった。実原隆行と形の上で結んだのは一月前のこと。
芳子は桜の向こうに人影を見た。
人…否。人にしては、赤い。じっとこちらを見ている、気がする。芳子以外の者は気付かないようだ。にわかに風か起こる。桜の花びらと長い髪とで視界が塞がる。
そっと目を開くと、目の前には。
天狗。