翼のない天狗
 何故か惹かれ、惹き、通じ、結んだ身が清青であった。実原紫青が天狗の血を引き、冥王山の清青坊と名乗っていることを知るは、父である清影坊と他の大天狗、黒鳴、深山、それに母のみだ。

「母上、いかがされた」
 紫青が本堂の縁へ腰掛ける。芳子は少しの躊躇いの後、子に倣い、腰掛けた。

「紫青、花姫はどうでした。家柄も申し分なく、器量も良く…」
 その話か。
「天狗が人をどうこうするなど、不相応だ」
 どちらが、どう不相応か。
 芳子が観念したかのように話し始める。
「母は、あなたに父親の話をしなければ良かったと時々思うのです」
「なぜですか」
「それで……紫青を悩ませているのでしょう?」
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