翼のない天狗
 長い睫。暗闇だが、その色も狐色とわかる。
「今宵、改めて抱かれてくれぬか」
 花の顔は真っ赤になったが、それは見えない。ただ、紫青は感じた。

 ゆっくりと躯の重さを花に傾ける。
「紫青様…」

 戯れは終えた。
 涙が女の頬を伝う。紫青は長い指でそれを拭った。
「痛むか」
 確信はしていたが、やはり生娘であった。
 花は首を横に振った。
「まだ、紫青様が私の中を走っているようです……」
 何故この女を抱こうと思ったか、紫青自身もよく解らない。が、次の夜にも来ようとは一切考えていない。

「そうか……」


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