翼のない天狗
「おい清青、探したぞ」

 日が西に傾き、京の寺から夕刻を告げる鐘の音が届く。街道沿いの高い樹の枝に座っていた清青を見つけて、深山が空から降りてきた。

「深山……何だ」
「俺はお前が戻って来るのを、冥王の山で待っていたんだぞ、あれからずっと」
「それはすまないな」
 覇気のない清青の答えに、深山は、はぁと長息を吐いた。

「清影様とは何の話をしたのだ?」
「いつもの話だ」
「成程。取り合ってくれぬことをふて腐れておるのか」
「ふて腐れてなどおらぬ」

 不機嫌な声で清青は返事をする。深山はケタケタと笑った。
 清青は、つい、と深山から目をそらす。ちょうどその時、眼下の街道を人間が二人通った。
< 5 / 224 >

この作品をシェア

pagetop