翼のない天狗

 
 氷魚は思った。
 この方も私と同じだ。

「もう一度…お顔をご覧下さい」
 清青の視線の先、床の上に氷魚は指を置く。指先が触れたところに水が溜まる。染み込むことはない。

 物憂げに清青は覗く。
「清青様は、海をご覧になったことがございますか?」

 落ち着いた声。
「…三度見た」
「いかがでございました」
「美しく…輝いていた…」
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